旧<緋呂の異界絵師通信>

2018.05 本拠地を新天地へ移しました

人生最初の大きな買い物は何だった?絵描きだから絵だったのか?あなたはどう?

20代の初め頃に、アメリカ人アーティスト「アイベン・ロール」という人の絵をすごく好きになり、シルクスクリーン版画を2枚買った。

いっぺんに2枚買ったわけじゃない。
一枚買って、そのローンがあと少しになった頃に、もう一枚買った。
別々の画商から。

最初の一枚が確か、60万くらいしたと思う。
バブル末期だったけど、印刷業界というブラックブラック業界の最低辺みたいなところで仕事してた私にはバブルの好景気など一切関係なかった。
このままだと死ぬかな、と思ったので転職して、とある精密機器メーカーの広報部的部署の中途採用に潜り込み、給料が「OL」化した直後のこと。
当然ローン…もしかしたら、生まれて初めてのローンだったかも。

(ぶっちゃけ、前の職場の給料だとローン組めなかったかもね。クレジットカードも持ってなかったし)


車を買わない(当時は、免許を取ることもないだろう、というくらいに思っていた)し海外旅行も行かないし。
人生最大の大きな買い物だった。
その金額のお札を一度に見たことすら、なかった。

 

 

人の作品を買うという発想は、千円単位で、しかもコミケだけでしか発動しないものだと思っていたのに。
しかも、一点ものですらない複製品だ。
いくら精巧で手間のかかった複製品だと言っても、複製は複製。

 

当時、絵画商法というのが悪徳商売の代表格として広まりつつあって、私が買った画商も、見事にその槍玉に挙げられている会社だった。

そのせいで、その画家の名前を検索すると、今でも真っ先に悪徳商法被害云々というのがあがってくる。

 

が。
それがなんだ?

投資目的で買ったなら、後から文句も言いたくなるかもしれないが。
そんなわけじゃない。

転売なんて考えないし。
仮に本当にのっぴきならない事態になって売るハメになったとしても、二足三文。
そこは、最初から承知の上だった。


もちろん、今でもその絵は持っている。

 


私は絵描きで。
人生最初の大きな買い物は、絵だった。

これにお金を出してもいい、と思ったものは、絵だった。

 


パソコンを買った時も、最初から、アナログのイラストに色をつけることが目的の一つに入っていた。

そのために、一般的ではない機材を揃えなきゃならなくなった。

それを調べる過程で、だんだん、パーツ買い自作派に転向していったのだが。

 

 

 

最近、しみじみ思う。
近すぎると、売るとかプロデュースとか、考えられない。
どんな作品にどんな値段がついていても、結局、意味がわからない。
これが、この値段?!
それが、ハイレベルであっても、逆であっても、常に思うこと。
これ以外の感想が、出なくなった。


私の恩人は、いつも、私に、欲しい値段を自分で決めなさい、と言う。
きっと、今、こんな話をしても、同じことを言われるだろう。

欲しい値段って?
なんだそれ?

そんな値段じゃ譲りたくない、っていうのは、もちろん、ある。
けれど、だったら幾らだ…みたいなのは。
わからん。

 


百貨店の中にあるギャラリーでグループ展が開かれていて。
どうやら、出展者はみなさんプロらしい。
そりゃそうだね、いくら斜陽でも百貨店だもん。
それなりのクラスの人でなきゃ、出展者になれんだろう。
で。
ついている値段を見ると、まあ、それくらいだろうな…と思うものと、驚いてしまうものと、ある。

7桁に乗っている絵画について、受付にいた人に質問してみた。
私の質問は、絵の具に関する質問だった。
なのに、受付のお姉さんは値段の話をした。

天然顔料を使っているから、どうしても、高額になるんです。

聞いてねえし、そんな話。

私は、この絵の表面の粒子が反射して光っているのは、何を混ぜてるのかを聞いたのだ。

さかんに、岩絵具と水干(すいひ)絵具の違いをしゃべりだす。
岩絵具は鉱物だから云々、水干は泥だから云々…で、持っていく先は、だから高価になるんです…と。

いや、だから、聞いてないって。
そこまではお教えできません、とでも言ってくれたほうがよっぽどスッキリする。

結局、話途中で退場した。

 

商売には向いてないな、と一層思う、今日この頃。

 

 

 


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